文化
番付の最後の筆
書師・東雲太郎が語る四十年の墨の記憶
番付を書き始めて四十年になる。墨を磨り、筆を整え、和紙に向かう。その儀式的な静けさの中に、相撲の数百年の歴史が宿っている。春場所の二週間前、私は狭い書斎に閉じこもり、東西の力士百余名の名前を一つずつ筆で書き上げていく。和紙の繊維に墨が染み込む瞬間、筆先から力士の魂が伝わってくるような感覚がある。
大きさが語る秩序
番付の文字は力士の地位に応じて大きさが変わる。横綱の名は最も大きく、十両は小さく、幕下に至ればさらに繊細な筆遣いになる。この格差こそが番付の本質であり、一枚の和紙の上に相撲界の秩序が凝縮されている。四股名の画数が多い力士ほど、筆の圧力を変えなければならない。
筆を入れて四十年、和紙の感触は変わらない。だが、墨を磨る時間は年々短くなっている気がする。次の春場所もまた、一筆一筆に込める思いを新たにして筆を執るつもりだ。書師の仕事は力士の記録であり、同時に時代の記録でもある。